AIを活用したFX自動売買研究:約22年間のUSDJPYデータを調べ、EAの実運用を見送った理由

私は、手動でのFX取引を続ける代わりに、決めたルールで機械的に売買するEA(自動売買プログラム)を作れないかと考え、OpenAIのChatGPTとGoogleのGeminiを併用しながらバックテスト研究に取り組みました。この記事は、利益を保証する手法の紹介ではなく、私が何を確かめ、なぜEAの実運用を見送ったのかを記録したものです。

1. 研究の目的:EAは同額拠出のNISA積立を上回れるか

本研究の目的は、「同額を積み立てるNISA利用の株式インデックス投資を、EAが税金やコストを考慮した最終資産額で上回れるか」を確認することでした。とりわけ、自分で研究したEAが、同額のインデックス積立を上回るだけの根拠を持てるかを調べました。

なお、NISAは投資商品の名前ではなく、運用益に関する非課税制度です。FX自動売買の研究では、比較基準として以下の2つの仮定利回りを使用しました。

研究段階 比較対象 比較利回り 初期資金 年間追加
FX初期研究 銘柄未指定の株式インデックス積立 仮定年率10% 5万円 5万円
FX後期・複数通貨研究 銘柄未指定の株式インデックス積立 仮定年率5% 10万円 5万円

この年率10%と5%は研究上の複利成長シナリオであり、特定ファンドの実績、金融庁の想定利回り、将来の期待リターンではありません。初期と後期では拠出額が異なるため、同じ段階のFXとNISAの間で同額拠出を想定して比較しています。また、この仮定モデルと、後述する実際の投資信託の過去基準価額を使った別研究とは区別して扱っています。

2. 使ったデータと検証した売買の考え方

検証の中心となったのは、2005年1月から2026年10月までの約22年間におけるUSDJPY(米ドル/円)の約799万本の1分足データです。データの欠損や価格の整合性(1分間隔の連続率約99%)、時間足への変換を確認したうえで、PythonとMetaTrader 5(MT5)、およびChatGPTとGeminiを活用して検証を進めました。

検証では、主に以下のような売買の考え方を試しました。

各モデルでは、スプレッド、スリッページ、損切り、利益確定、証拠金、ロット、最大ドローダウン、税金などを可能な範囲で考慮しました。検討したパラメータの組み合わせ候補は最大約2億通りになりましたが、それらすべての組み合わせを実行したわけではありません。候補空間から複数のルールを取り出して検証し、条件を変えて結果の頑健さを調べました。

3. 検証で分かったことと代表的な結果

一部のバックテストでは、計算上の利益が出る条件も見つかりましたが、コストやリスク、再現性の面で課題が残りました。代表的な結果は以下のとおりです。

検証した売買方法 代表的な検証結果 確認された課題・見送りの理由
日足を使った低頻度の売買方法 スプレッド2倍・保有約72時間の一条件で683取引、PF約1.083、累積損益約18.2万円 最大ドローダウンが約26.2%と大きく、仮定年率5%のインデックス積立モデルの最終資産額に届かず、事後的な条件選択の懸念もあり不採用
移動平均線等を組み合わせた候補モデル 通常コスト条件でPF約1.97となる候補を確認 取引コストの悪化、リスク制限、税制、独立した未使用データ期間の不足を検討すると、安定した優位性を証明できず不採用
過去の高値・安値を利用する方法 後半の検証32条件すべてでPFが1未満 取引コストを考慮すると総利益が総損失を下回り、優位性を確認できず不採用
レンジ突破・反転を利用する方法 検証24条件すべてでPFが1未満 順張り・逆張りともにコスト負担やダマシによる損失を上回れず不採用

※これらの数値は別々のモデル・設定から出た結果であり、直接横並びで比較できる統一条件の結果ではありません。また、バックテストの計算整合性が確認できたことと、将来の相場で利益が出ることが証明されたことは別であり、実口座でEAの自動発注を本格運用した実績もありません。

4. 別途調べたNISA積立投資の過去成績

上記の仮定利回り(10%・5%)とは別に、運用会社が公表している実際の投資信託の過去基準価額を参照し、毎月積立のシミュレーションも独自に行いました。

対象 過去XIRR(購入日基準) 最終評価額
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) 約20.18% 1,115,632.76円
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) 約22.51% 1,242,084.95円

算出条件とご確認いただきたい注意点

  • 計算条件: 期間は2019年1月4日〜2026年11月5日。初期投資100,000円、2020年以降は毎年50,000円を追加(1〜11月:各4,167円、12月:4,163円、合計拠出額:445,837円、各ファンドの購入回数:84回)。各月の2番目の共通基準価額公表日における分配金再投資基準価額を使用し、信託報酬は基準価額に反映済みとして二重控除していません。端数口数の購入を許容し、NISAによる運用益非課税を仮定して、購入日の拠出額をマイナス・最終評価額をプラスとして標準的なXIRRを計算しています(実際の買付や取引は行っていません)。
  • 試算の性質と限界: この試算は運用会社の公式基準価額を参照して運営者が独自に行った過去のシミュレーションであり、運用会社が公表する公式XIRRではありません。購入台帳からのXIRR再計算は確認できましたが、当時使用した公式CSV原本を保存していないため、全期間の入力価格を一次資料と完全に独立照合したわけではありません。
  • 比較上の注意と過去の下落幅: 過去の特定期間の試算であり、将来の期待利回りではありません。また、旧NISAと新NISAの実際の買付制度を完全再現したものではなく、約22年間のFX研究とは比較対象期間が異なるため、FX研究との直接の勝敗判定には使用していません。なお、対象期間中には大きな価格下落もあり、資金流入の影響を調整した日次系列の最大ドローダウンはオール・カントリーで約33.89%、S&P500で約34.54%となっていました(※投資元本に対する損失率や口座の単純な残高下落率とは異なります)。
  • 出典・参考資料: 三菱UFJアセットマネジメントの設定来基準価額CSV(オール・カントリー / S&P500)、XIRR関数の仕様(Microsoft)、NISA制度(金融庁)

5. FX以外の研究と、研究を凍結した理由

FX以外にも、株式インデックスや金ETF、複数資産の配分方法などについてAIを活用して調べました。一部の組み合わせでは過去の下落幅が小さくなる結果もありましたが、将来の収益性を十分に証明できる運用方法の確立には至りませんでした。また、日本株データ(J-Quants)を用いたAI分析についても、決算データの品質監査までにとどまり、利益を生む銘柄選択モデルの完成には至っていません。

最も大きかったのは、「過去にうまくいった」という事実だけでは、将来も勝てる根拠にならないという点です。過去の同じデータを繰り返し参照して売買ルールを改善すると、偶然その期間だけ良い条件を選んでしまう(過剰最適化の)可能性があります。さらに、1分足データからは急変動時のティック内の約定順序や実際の滑りを完全には再現できず、すべての時代のスプレッド・スワップ・税制を統一的に再現できたわけでもありません。

本研究の最終結論(2026年11月8日凍結)

本研究では、取引コスト、損失リスク、税金、過剰最適化などを考慮した結果、EAが同額を積み立てる株式インデックス投資を長期的かつ安定して上回ることを十分に証明できませんでした。そのため、2026年11月8日をもって研究を凍結しました(※これはすべてのFX戦略が無効であるという主張ではなく、私自身の研究では十分な優位性を証明できなかったという判断です)。

6. 得られたものと今後:検証を重ねること自体の価値

長期的な収益性を十分に確認できる自動売買戦略は構築できませんでした。検証した範囲では、実運用に採用できるだけの収益性と安定性を証明できませんでしたが、データを監査すること、バックテストの売買台帳を確認すること、損失の上限や取引コストの影響を調べること、そして検証に限界があるときは実運用を採用しないことを学びました。

FXを始めた当初、私はチャートの見方や基本用語さえ分からず、ChatGPTやGeminiに質問しながら学習していました。しかし、検証を重ねる過程で、値動きが確定した後のチャートに対する「後付けの説明」と、先が分からない時点で利用できる情報だけで判断することの違いや、資金管理・最大ドローダウン・統計的な信頼性といった視点を学び、以前よりも検証結果を慎重に評価できるようになったと感じています。

検証を続けることには、利益の出る方法を探す以外の価値もあると思っています。知識が増えれば、最初は気づかなかった問題点に目を向けられるようになります。私は、利益が出た結果を探すことよりも、その結果が本当に信用できるかを考えることの大切さを学びました。(※もちろん、検証を重ねれば必ず利益が出る、あるいは専門家になれるという意味ではありません。)

今回凍結したのは、私自身が研究した売買ルールです。EAという仕組みや、すべての自動売買サービスの有効性を否定するものではありません。研究ではChatGPT・Geminiに加え、PythonやMT5も利用しましたが、再現性や実際の取引条件には課題が残りました。自動売買を検討する場合は、対話AIの回答や過去の好成績だけで判断せず、EAに対応した検証機能や独立した確認手段を活用し、取引コスト・損失リスク・検証の限界を確認することが重要だと感じています。私自身も、対話AIだけでなく専用の検証ソフトや独立した確認手段を併用する方がよいのではないかと感じましたが、もちろん特定の検証ツールや専用ソフトを利用すれば利益が保証されるわけではなく、どのような道具も将来の利益を保証しません。

今後は積立投資も含め、FXに限らず幅広い資産形成の仕組みを学んでいこうと考えています。当サイトの情報も含め、あらゆる情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、公式資料や無料の検証機能を使ってご自身で確かめる際の参考材料になれば幸いです。